【なんもくびと】地産地消の自給モデルを実現したい 鰐渕元貴さん(「村の喫茶店もくもく」店主)

2019年に地域おこし協力隊として南牧村に移住した鰐渕元貴さん。この8月に、夫婦で営業している「村の喫茶店もくもく」が開業から2年を迎えました。今年からは自家菜園で育てた野菜を店で提供したり、英会話教室を開催したりとチャレンジを続ける鰐渕さんに、今の心境と今後の抱負を聞きました。

鰐渕元貴さん(左)と、奥様の侑生さん(右)

自家菜園で育てた野菜を店舗で提供

ー自家菜園では、どのような作物を栽培しているのですか?
「ランチセット」の食材として提供しているレタス、トマト、ブロッコリーをはじめ、多くの種類の野菜を栽培しています。最近では、村の特産品候補になっている「さるなし」や、村内の塩沢地区で栽培されていた「塩沢ブルー」という名のインゲンも育てています。

鰐渕さんの自家菜園。喫茶店から歩いてすぐの場所にある。
トマトを収穫
日曜に10食限定で提供している「ランチセット」。自家菜園で収穫した野菜を使っている。
ランチのメニューや食材は、季節ごとに変えている。

ー菜園が店から近いのは便利ですね。
営業日以外にも週3日は、ここの管理者として出勤しています。もっぱら事務作業をしていますが、時間が空いた時には畑仕事ができるので、重宝しています。あと、店から出た生ゴミをコンポストで肥料にして畑に戻していますが、近いので持ち運びにも便利です。

ー生ゴミも資源として循環させているのですね。
生産、消費、リサイクルを循環させる自給モデルを、ここで作りたいと考えています。まだ道半ばですが、生産量を少しずつ増やして循環の輪を大きくしていきたいですね。

店から出た生ゴミは、コンポストで肥料にして畑に戻している。
肥料袋はウガンダ製

青年海外協力隊から地域おこし協力隊へ

鰐渕さんが喫茶店をやりながら畑作もしているのは、元々農業を志していたから。大学の農学部で稲作を専攻した鰐渕さんは、卒業後はすぐ農業の道には進まず、興味があった青年海外協力隊に応募、稲作の普及がミッションだったアフリカのウガンダで稲作の試験や普及活動に2年間従事する。帰国後は大学院で稲作を2年間勉強した後、2019年4月に南牧村の地域おこし協力隊として着任し、村暮らしを始めた。

ー稲作を目指していた鰐渕さんが、田んぼがない南牧村に移住しようと思った理由は何ですか?
大学院卒業後は農業試験場に就職して、農業のスキルを磨いてから地域に飛び込むつもりでした。でも、たまたま地域おこし協力隊の友人と話した時に、地域おこし協力隊として農業と関わる選択肢もありだと思い、農業ができる地域おこし協力隊を探したら、目に留まったのが南牧村の募集だったんです。

村に来る決め手は何でしたか?
最初に村を見学に来た時に村長や村の方々とお話して、環境がよいところだと感じました。カフェの店舗を見学して、ここで店をやる人がいないと聞いた時、自分が作った食材を調理して提供する飲食店をやりたいと思ったことが決め手となりました。

ー店との出会いも偶然だったんですね。
そうですね。村に来るまでカフェの経営は頭になかったんですが、一緒に暮らす予定だった私の妻が飲食店をやりたい思いが強かったので、ここでなら二人で店を始められると思ったんです。おかげで、コーヒー生産が有名だったウガンダから豆を仕入れることもでき、青年海外協力隊の経験を生かすことができました。店が持てて幸運だったと思います。

「村の喫茶店もくもく」外観

ー実際に村で暮らしてみた印象はどうですか?
生活環境が良い村だと感じています。当初は高齢化率ナンバー1の過疎の村という印象でしたが、高齢者の皆さんがお元気なので、印象が一変しました。車があれば生活にも不便はありませんし、色々な集まりで店を使ってもらえるので、地区だけでなく村の多くの方々とも面識ができました。やりたいことをやらせてもらっていて、村暮らしの満足度はとても高いです。

経済的自立に向けて

開業以来、鰐渕さんは幾つものチャレンジを続けている。昨年10月からは、コーヒーを生豆の状態で仕入れて、南牧の炭で自家焙煎を開始。ドリップコーヒーを商品化して店舗や道の駅で販売したり、ウガンダから雑貨を仕入れて販売したりと、事業の幅を広げている。

店内で販売されているウガンダ製の雑貨

ー開業して2年が経ちましたが、今の感想は?
常連客も増え、喫茶店の営業が形になってきたと感じています。施設もさまざまな用途で使われ始めて、場としての機能も備わってきました。

ー金曜に英会話教室も始めましたね?
村の方々から「やってほしい」と言われて、地域おこし協力隊の活動の一環で始めました。木曜と金曜の夜には、地域未来塾の授業で中学生にも教えています。その他にも、別の講師の方が「さきおり教室」を開催していますし、今はコロナで保留していますが、ヨガ教室も近々始める予定です。

ーこれからの抱負を聞かせてください。
地域おこし協力隊の任期が来年3月までなので、それ以降は経済的に自立して店舗を運営できるよう、試行錯誤しながらも準備を進めています。今は妻も介護施設で働いていますが、いずれは店の経営に二人で専念したいと思っています。

ー自立に向けて、具体的に考えたり準備していることはありますか?
野菜の生産量やメニューを増やすのはもちろんですが、営業日もあと1日は増やしたいと思います。あと、車を新しく買ったので、移動販売も始める予定です。道の駅や色々な場所に出向いて、コーヒーやお菓子を提供したいですね。

ー専門の農業についてはいかがですか?
将来的には稲作にもチャレンジしたいと思っていて、試験的に陸稲を畑に植えています。聞いた話では、昔はこの小沢地区にも田んぼが数枚あったとか。絶えてしまった稲作を復活できるといいですね。

取材を終えて

南牧名物となった炭ラーメンのように、地域への集客装置として飲食店の存在は大きいと思います。鰐渕さんが取り組む地産地消の自給モデルが本格的に回りだせば、きっと話題になって観光客の来店も増えそうです。場所的にも村内の入口にあるので、イベント会場としても可能性が大きいと感じました。

「村の喫茶店もくもく」の厨房(上)と店内(下)