【なんもくびと】 長期的な視点で林業に取り組みたい 古川拓さん(株式会社サンエイト企画代表取締役)

今年の3月に林業の会社を設立した古川拓さん

今年3月に(株)サンエイト企画という林業の会社を設立した古川拓さん。これまで都会の若者と村人がイベントを通じて交流する団体「なんもく大学」の事務局長として村に関わってきた古川さんは、昨年、正式に南牧村に移住。今は、南牧や下仁田で林業の仕事をしながら、NPO法人「なんもく笑い塾」や、学校教育にも関わっています。会社の設立理由や今後の抱負などを、古川さんに聞きました。

造林・育林を行う林業会社を設立

ー まず、会社を設立した経緯を改めて聞かせてください。

昨年に村へ移住してから、林業の現場で働く親方に付いて仕事をしてきました。その親方は個人で仕事を受託していましたが、やはり個人だと信用の面で受託できる仕事の幅が広がらないので、私が肩代わりして法人を作り、代表に就任しました。現在、親方と私を含めて正社員が3人、契約社員が1人で、チームで作業をしています。法人化する前と比べて仕事の中身は変わりませんが、今後はできることを、少しずつ増やしていければと思います。

ー 具体的には、どのような仕事をしているのですか?

林業は、木を植えて育てる「造林・育林」と、木を切って売る「林産」の2種類に分けられますが、我々が主に行っているのは「造林・育林」です。一言で言えば、森を育てる仕事ですね。木の苗を植えるだけでなく、あぜ道を作ったり、下草刈りや間伐をしたりと、さまざまな仕事があります。今は、下仁田の森林組合から受託して、クヌギとコナラの苗を植え付けています。現場は杉の枝が無造作に散乱しているので、まず杉の枝を片付けて苗を植える空間を作り、植えた後は獣害対策のネットを張ったりしています。

ー 苗を植え付けるまでが大変そうですね。

今の現場は伐採の跡地で、木の枝が積み重なった山の斜面です。現場にたどり着くのも一苦労ですが、重い木の枝を片付けなければいけないので、体力を使います。なので、造林や育林ができる人材は本当に少ないですね。

ー 作業する期間は、大体どれくらいですか?

昨年を例に取ると、1月と2月は間伐、3月から5月は苗の植え付け、6月からは他の現場で苗の植え付け、8月から11月までは下草刈りと除伐、12月は作業道整備をやりました。発注元も、森林組合、国、県と複数です。大抵は我々の能力に合った仕事が来ますが、業者数が少ないので、断った仕事もありました。

仕事がなくなることはなさそうですね。

林業には、木を植えて育てて切って売るという一連の作業に加えて、山の森を守るという大きな役割があります。森を保護しないと、下流域に住む人たちの水が守られませんし、土砂災害に直結します。だから、国や県などの行政は補助金を出していますが、作業エリアを広げたくても人手が追いついてない状況です。

古川さんが仕事をする育林の現場。重そうな木がゴロゴロしていて、片付けるだけで大変そう。
急斜面に苗を植えた現場。わかりやすいように、苗にはピンクのテープが巻かれている。
獣害対策のネットを貼るのも仕事。

伐採、製材、教育などへ仕事の幅を広げたい

ー 次に移住について伺います。古川さんが村で暮らし始めたのは、いつ頃ですか?

住民票を移したのは昨年7月ですが、5月からは今の家で暮らしています。それまでも、実家の横浜と村を行き来して2拠点生活をおくってきましたが、コロナで移動が難しくなったので、村に定住しました。

ー これまでも古川さんは「なんもく大学」で村と関わってきましたが、移住を決めた理由は何でしょう?

いつかは南牧に移住する予感はありましたが、それは今ではなく、40歳くらいだと思っていました。でも、都会でも定職に就いていなかったので、そうした生活に少し飽きてきたのと、定職に就く時に、東京で働いているイメージが持てなかったんです。その時に、友人の佐藤さんからNPOを立ち上げる話を聞き、一緒にやろうと思い移住を決めました。2019年末のことです。

林業をやりたいと思った動機は何ですか? 

昔からキャンプやハイキングが好きでしたが、林業に興味を持ち始めたのは、林業の現場を見学した大学時代ですね。それと南牧では、木を使う仕事が一番身近に思えたからです。

今の林業の課題は何だと思いますか?

大きなご質問ですが、一番は資本主義だと思います。山林の木を切らないのも、今の林業がお金にならないからですが、お金よりも国土を守るほうが大事です。南牧村でも、山に入れば至るところで崩壊が起こっていますし、枯れている沢も多く見かけます。いま森を整備しないと、下流域で水が不足するかもしれません。そうした危機感を共有しながら、生態系も含めて林業を考えていきたいですね。南牧村には、そのヒントが隠されていると思います。あとは、長期的な視点を持つことでしょうか。本来の森は、数万年単位という長期間をかけて育まれてきました。それが、わずか数百年という短期間で危機的な状況に瀕しています。すぐに正解を求めるのではなく、時間軸が長い森づくりを進めていくのが、答えではなく筋かと思います。

最後に、今後の抱負を聞かせてください。
重機を使う伐採にも手を出していきたいですし、製材、炭焼き、薪作り、腐葉土作りにもチャレンジして、、仕事の幅を広げたいと思います。それと、子どもたちの教育にも関わります。本年度から、南牧小学校が開催している「放課後チャレンジクラブ」の一環で、山林体験を子どもたちに提供します。まずは手軽な木工や、枝や葉を使った作業から始めますが、自然の中で大きなスケールのものづくりを経験させたいですね。

土砂崩れの現場

取材を終えて

古川さんとは「なんもく大学」の頃から交流はあったが、まさか移住するとは思わなかったし、林業の会社を作ったことにも驚いた。南牧村は山林に囲まれているが、林業が盛況とは言い難い。古川さんが立ち上げた会社が雇用の受け皿になって、村の仕事の一つに林業を選べることができれば、移住者の選択肢がより広がると思う。古川さんがチャレンジする新しい林業に期待したい。