【なんもくびと】女将に人生相談ができる宿「Mattyの古民家」を開業した小林真奈さん

昨年12月、民泊宿「Mattyの古民家」が、村役場に近い集落内にオープンしました。この宿の売りは「占い」。宿泊者が希望すれば、占い経験が豊富な女将から悩みや相談の鑑定が受けられます。こうした個性的な宿を、なぜ南牧で開業したのでしょう?また、どのような鑑定をしているのでしょうか?昨年6月に高崎市からこの家に移住した女将の(Mattyこと)小林真奈さんに聞きました。

村を貫く県道から細道を少し下った場所に建つ「Mattyの古民家」。取材したのは4月中旬で、桜が見頃を迎えていました。
「Mattyの古民家」の女将、小林真奈さん

夜の21時から始まる占い鑑定

「Mattyの古民家」は、養蚕農家だった古民家をリノベーションして開業した、一日一組限定(4名まで)の民泊宿。宿泊は素泊まりのほか、小林さんの占い鑑定付きプランや、長期滞在できるワーケーションプランがあり、宿泊希望者はホームページの予約フォームから申し込みます。(詳細はホームページを参照ください)

客室内。電球色のライトが、古民家の魅力を引き立たせています。

一番人気は、やはり占い鑑定付きのプラン。開業以来、小林さんの占い鑑定を目的に全国各地から宿泊者がひっきりなしに来訪し、すでに年内は予約で埋まっているそうです。聞けば、インスタで発信している宿泊紹介動画が大人気で、ほとんどのお客様がインスタを見て予約されるとか。集客に苦労することは当面なさそうです。

その「占い鑑定」について、小林さんに詳しく聞きました。

占い鑑定が始まるのは、夜の21時から。小林さんが客室で宿泊者の話をじっくり聞き、それに応じた占い(占星術など)をしながら、お客様の気持ちを整理していきます。小林さんの占い歴は16年。タロット以外の占い手法は、一通り習得されているそうです。お客様と晩酌をしながら占いに臨む場合も多いとか。

「一方的な占いではなく、カウンセリングに近いですね。お客様の漠然とした悩みや相談を受け止めて、情報を整理しながらクリアにしていくイメージです。お客様は自分の話を聞いてくれることを求めていますので、私は占いでお客様の話に乗っかるようなイメージです」

元々は趣味で占いを始めた小林さん。小学3年生の時から出会った人のデータを集め、蓄積しています。経験を積むうちに、その人の運勢や人生のタイミングに応じたアドバイスができるようになったそうです。

「占いは統計学だと思っていますので、お客様の情報は欠かせません。宿の占いでも、事前に予約フォームで細かな情報や希望をお客様から聞いたうえで占いを始めます。ただしマニュアルはなく、お客様のタイプや話の流れに応じて柔軟に対応しています。実際の例としては、家を手放すかどうか迷っていたり、起業、結婚、離婚などの人生のタイミングで迷っているお客様が来訪されました。お酒を飲みながら対話しますので、お客様と仲良くなれるのも魅力です」

宿の食事は地元飲食店で調達

次に、小林さんの案内で客室内を見学しました。玄関から中に入ると、古民家の味わいを残しつつ改装された魅力的な空間が広がっていました。

玄関の脇に置かれた古民具類。
古民家の歴史を感じる客室。
南牧の廃材で作られた玄関先のテーブルカウンター。シェードランプが雰囲気を盛り上げています。
アンティークな調度品も多く置かれています。
寝室。床の間に置かれた古時計が印象的。
こちらはキッチン。宿泊者が自由に使用できます。

「Mattyの古民家」は民泊なので食事の提供はありませんが、朝食は当日に「もえぎ彩」から仕入れた焼き立てパンを全宿泊者に提供しています。夕食は、食材を持ちこんで自分で調理するほか、事前に頼めば近隣の飲食店からメニューを選択し、デリバリーを取ることも可能です。

「この宿では飲食店の営業許可を取れなかったので、それを逆手に取って村内や近隣の飲食店と協力して地域ぐるみで応対しようと考えました。デリバリーは私が行いますので飲食店の負担はありません。現在、村内の5店舗、隣の下仁田町の2店舗の飲食店と連携し、お客様から事前に注文を受けています。デリバリーと自炊の比率は半々くらいでしょうか」

移住先に南牧を選んだ理由

一通り室内を見学させていただいた後、南牧村に移住して宿を始めた理由を聞きました。

小林さんは県内の大泉町出身。大学卒業後はハウスメーカーで新築ハウスの営業をしていましたが、空き家が増え続ける今は新築の時代ではないと考え、リノベーションの会社に転職。会社が運営する家具屋の店長をしながら、リフォームの営業や相談窓口を担当していました。そのうちに自分でも空き家を活用した事業を始めたくなり、民泊可能な空き家を県内で探すなかで出会ったのが、南牧村の空き家バンク。役場に移住相談するなかで紹介されたのが、この家でした。他にもさまざまな物件があるなかで、なぜ南牧を選んだのでしょう?

「物件を選ぶ時に、『群馬県』『古民家』で検索したら、南牧村の空き家バンクがヒットしたんです。他の自治体の物件も候補でしたが、リノベーションにかかる費用、役場の対応、現地の状況を比べた結果、村から紹介されたこの家に決めました。特に、役場の対応が手厚かった点が大きかったですね。普通は家を貸して終わりですが、色々と私を気遣ってくれて、生活相談にも乗ってくれましたし、ご近所や村内の方々への挨拶にも同行してくれました。近所の方々も暖かい人ばかりで、移住して本当に良かったと思っています」

小林さんは前職を退職して、昨年6月からこの家に移住を開始。知り合いの業者にリフォームを依頼して半年かけて改修し、昨年12月に開業にこぎつけました。以来、お客様を迎えながら、地域との関係づくりにも気を配っています。

「役場や住民の方々にはお世話になりましたので、集落の懇親会で宿を使っていただいたり行事にも参加したりして、早く地域に溶け込めるよう心がけています。『占い鑑定の宿』ということで当初は宗教っぽいイメージが先行しましたが、懇意にしていた方々が正確な情報を広めてくれたおかげで、今は良いイメージに戻りました。ここに住まわせてもらっていると私は思っていて、村の方々には感謝しかありません」

自然観察ツアーの他、2棟目の民泊施設を検討中

現在、半年先まで予約が取れないほど人気を集める「Mattyの古民家」ですが、今後やってみたいことはあるのでしょうか?

「宿の魅力よりも、私はこの南牧村自体が魅力だと思っています。民泊を通じて南牧村のファンを作り、定期的に通われる方を増やしていきたいですね。最近では宿泊のオプションとして、役場と連携して南牧の自然観察ツアーを始めました。おかげさまで好評で、多くの予約をいただいています。また、2棟目の民泊施設の開業も、現在検討しています。そちらは管理人が不在の施設にする計画ですが、村民の方にも関わってもらい、雇用を生み出せると嬉しく思います」

2棟目の民泊開業は先になりそうですが、宿を起点にしたサービスも人気を集めていますので、小林さんの今後の事業展開に期待したいと思います。

黒瀧山で鐘を鳴らす自然観察ツアーの参加者たち。

取材を終えて

幾つかの偶然や出会いを経て南牧村に移住して、他では見られない(日本初ではないか?)占い鑑定付きの宿を開いた小林さん。移住から1年足らずのうちに実績をあげているのには驚くばかりです。占いだけでなく、地元の飲食店の料理も楽しめる地域密着型の宿である点も、お客様を惹きつける魅力だと感じました。こうした個性的な事業を始める方が少しずつ増えていけば、村の認知度や魅力も広がっていきそうです。(以上)

<「Mattyの宿」のHP>https://www.matty-no-kominka.com