【なんもくびと】南牧産のお茶を製品化した高栁順子さん

地域おこし協力隊を卒業して2年半。学童保育の仕事をしながら「ヤツ商店」を開業し、南牧産の紅茶を作り、製品化している高栁順子(たかやなぎじゅんこ)さん。始めたきっかけ、苦労話、今後の抱負など、お茶づくりにかける思いを聞きました。

茶畑で作業する高栁順子さん

作っているお茶と年間スケジュール

ーまず、今のお仕事を簡単に紹介願います。

高栁 週に2、3日ほど学童保育で働きながら、「ヤツ商店」の名義で、南牧産で無肥料、無農薬の紅茶作りを生業にしています。今年は3回出荷していて、3回目の秋摘み茶では、花の香りを楽しめるジャスミンティー風の「茶花茶」を作って11月初めに出荷しました。

ー大まかな年間スケジュールを教えてください。

高栁 今年は5月から8月の間に茶葉を摘み、製造して出荷しました。おかげさまで、今年作った約100個は完売しました!

「道の駅オアシスなんもく」で販売された高栁さんのお茶

お茶作りを始めたきっかけ

ーもともと高栁さんは地域おこし協力隊で村に移住されましたが、当初からお茶を作ろうと決めていたのですか?

高栁 いえ、決めたのは協力隊の任期中ですね。私は2017年に協力隊として移住しましたが、着任当初は何をしたいのか決めていなかったので、村でできる仕事に色々トライしました。そのなかで、紅茶作りが一番自分にしっくりきて、可能性を感じたんです。

ー紅茶作りをやりたいと思ったきっかけは何ですか?

高栁 もともと村の資源を使って何かやりたいと思っていた時に、お茶の木が村に残っていることを聞き、自分も作ってみたいと思ったのがきっかけです。ちょうど別の協力隊の方が昔のお茶作りの様子を記録していたので、それを見て緑茶づくりに挑戦してみたり、お茶どころの狭山に研修に行って勉強するうちに、製造工程が少ない紅茶なら自分もできると思いました。ただ、さすがに紅茶作りだけでは生活できないので、他の仕事もしながら村に残れればいいなと思ううちに、心が定まりました。

ーお茶作りに一から挑戦するのは大変ではなかったですか?

高栁 最初は右も左もわからない状態でしたので、一から勉強しました。協力隊の方がまとめた記録を読んだ以外にも、他の地域でお茶作りをする方に話を聞きに行ったり、当時を知る高齢者の方にも聞いたりしました。

ーお茶畑は、どのように探したのですか?

高栁 お茶の木がある程度まとまって残っていて、作業しやすいと思える場所から選びました。お茶の木は村のあちこちに残っていたんですが、木の数が少なかったり、傾斜が急だったりして、現実的に茶葉を採取できる場所は少なかったんです。しかも耕作放棄地で木や草が生い茂っているので、比較的作業しやすい今の畑をお借りしました。最初は邪魔な木を切ったり草を刈ったりと大変でしたが、今はその畑の近くに引っ越したので、作業が便利になりました。

高栁さんが借りたお茶畑。斜面の木と木の間にお茶が植わっている。

ーかつては村でお茶作りが盛んに行われていたんですね。

高栁 多くの家が自家用として、コンニャク畑の周りで栽培していたと聞きました。昔はすべて手作りでしたが、昭和40、50年から平成初期までは、村の農協でも機械で製茶をしていたそうです。手作りしていた頃は、蒸した茶葉を「焙炉(ほいろ)」という焙煎機の上でもみほぐして乾燥させていましたが、私はホットプレートを使って挑戦しました。最初は軍手を付けましたが、茶葉の水分が飛ぶとベトベトして軍手に引っ付くので、暑さを我慢しながら素手で揉みました。

ー素手だと熱いと思いますが、ヤケドとかしませんか?

高栁 ギリギリ我慢できる熱さにしています。当時を知る方によれば、慣れると手に耐性が付いて意外に平気だったそうですよ(笑)。

蒸した茶葉をホットプレートの上でもみほぐし、乾燥させる

お茶作りの魅力と苦労

ー作った紅茶は、いつから製品化していますか?

高栁 協力隊の任期中に何度か試作して紅茶作りの流れが把握できたので、事業化のメドは立ちました。ただ、ある程度の生産量を確保しないと製品化できないので、他に畑を2箇所借りて生産量を増やし、2020年から製品化して販売を始めました。その年は道の駅に出荷したほか、村内の飲食店と農家さんが南牧産の野菜を消費者に送っている定期便にも加えていただきました。定期便を送った横浜の方からは「カフェを出すのでお茶を扱いたい」とご連絡をいただき、直接販売もしています。あと、私がきっかけで新たにお茶の木を植えて紅茶作りを始めた村人もいて、嬉しく思っています。

ー直販がもっと増えるといいですね。ちなみに、お茶作りは一人で行っているのですか?

高栁 作っているのは私一人ですが、道の駅の駅長さんには当初から色々とご支援いただいています。あと、最も忙しいお茶摘みの時期には、駅長さんのほかに、一昨年に結婚した夫にも手伝ってもらっています。

お茶摘み前の茶葉

ー高栁さんにとって、お茶作りの魅力は何ですか?

高栁 茶葉の香りが製造工程で変わるので、さまざまな香りを楽しめるのが魅力です。あと、水によってもお茶の味が変わったりと奥が深く、すっかり沼にハマってます。

ー逆に、苦労したことは何ですか?

高栁 楽しみながら作っているので苦労はあまり感じませんが、初年度はお茶が満足に作れず悩みました。あと、お茶摘みの時期には作業が集中するので大変です。それと、基本的に農地は斜面なので、草取りの最中に足を滑らせて骨折したこともありました。昔の方は、よく急斜面に畑を拓いて仕事をしていたと思います。

ー今後、挑戦したいことはありますか?

高栁 紅茶作りだけではなく、来年以降はイベントを加えていきたいと考えています。ゲストがお茶を摘んだり、製造工程を体験していただけるようなイベントが開催できるといいですね。紅茶という形ではありますが、かつての南牧村で緑茶を作っていた文化があったことを伝えていければと思います。もちろん、紅茶作りの品質向上も追求します。南牧産の茶葉を最大限に仕上げて提供できるよう、紅茶作りの研究を進めていきたいと思います。

取材を終えて

地域に移住して一から事業を立ち上げるとなると、パワーが必要なうえ、色々とプレッシャーも感じると思う。そうしたなかで高栁さんは、持ち前の明るさも生かしながら紅茶作りにコツコツ取り組み、少しずつ前に進んでいることに敬服する。
今年の秋に高栁さんが作った「茶花茶」を私も味わってみたが、ほんのりと花の甘い香りがして、独特の風味を楽しめた。生産量を少しずつ増やし、手摘みで作られる無肥料、無農薬の南牧産の紅茶のファンが増えることを期待したいと思う。

「茶花茶」とチャノキの花