【なんもくびと】東京からUターンして出張美容師を始めたリサさん

東京から南牧村にUターンし、住民の家を訪問して髪を切る出張美容師を始めた美容師のリサさん(茂木理紗さん)。村に戻り美容師を始めた今の思いと今後の抱負を聞きました

村の出張美容師として活動を始めたリサさん

住民向けの出張美容師を9月から開始

―まずは、リサさんの今のお仕事から聞かせてください。

リサ 業務委託会社に美容師として登録していて、西上州エリアの老人ホームや介護施設などで入居者の髪を切る仕事をしています。これに加えて、村内の住民の家を個別に訪問して散髪する出張美容師を今年の9月から新たに始めました。

―出張美容師の実績と利用者の反応はいかがですか?

リサ 始めてまだ2ヶ月ですが、これまで数名のお宅を訪問して、髪をカットさせてもらいました。お客さまは女性の高齢者がほとんどで、90代のおばあちゃんの髪も切りました。まだチラシとインスタでしかPRしていませんが、少しずつ口コミで広がっていると感じます。

―美容室で髪を切る美容師と出張美容師とは、何か違いがあるのですか?

リサ 出張して髪を切るには、美容師の免許に加えて保健所の「出張営業許可」が必要です。私の場合、村に美容室が少なく僻地であるという理由で許可をいただきました。

―今の仕事はカットだけですか?

リサ 今はシャンプーなしのカット専門ですが、ゆくゆくはパーマやカラーにも対応したいですね。その時には、移動式のシャンプー台も準備する予定です。

90代のおばあちゃんの髪を切るリサさん
出張美容師のチラシ(観光協会などで配布)

東京から南牧村へUターン

―次に、リサさんの経歴を教えてください。もともと美容師を志望されていたのですか?

リサ はい。前橋の美容専門学校を卒業後に上京し、都内のスタイリスト養成学校で学んだ後、東京・目白の美容室に11年間勤務しました。当初からスタイリストとして働き、ネイリストや育毛ケアも担当しましたね。その後、海外に住みたいと思いロンドンへ1年間留学し、帰国後はブライダルでヘアメイクをする仕事に転職しました。そこで4年半ほど仕事をしましたが、激務がたたって自律神経のバランスを崩してしまったんです。しばらくは寝たきりの生活を余儀なくされたので、仕方なく南牧村の実家へ戻りました。

―ご実家へ戻られたのは、いつ頃ですか?

リサ 昨年の夏です。クリニックに通いながら回復に努めましたが、やはり時間がかかりました。今年の6月頃にやっと動けるようになったので、無理なくできる業務委託会社に登録したんです。

―村で出張美容師を始めたのは、何がきっかけですか?

リサ 東京から実家に戻った時に、近所のおばあちゃんから「こっちで美容室をやればいいじゃない」と言われたのがきっかけです。ただその時は、体調が回復したら東京に戻ろうと考えていました。荷物も段ボール箱に詰めて送る用意もしていましたが、村で過ごすうちに、「ここもいいかも」と思うようになったんです。

―心境が変化した理由は何ですか?

リサ 南牧村が高齢化率日本一と知り、逆に面白いと思ったんです。だったらこの村で古民家美容室でもやってみようかと。ただいきなりお店を開くのは大変なので、まずは出張という形で始めてみようと思いました。

富岡まちづくりアワードで最優秀賞を受賞

―そういえば、最近、まちづくりアワードで最優秀賞を受賞されたそうですね。

リサ そうなんです。移住コーディネーターの方に勧められて「富岡まちづくりアワード2025」に応募して発表したところ、最優秀賞を頂きました。テーマは、「古民家をリノベーションした美容室」と「出張美容」とを組み合わせた地域貢献です。空き家問題、高齢者福祉、環境配慮など、複数の課題に同時に取り組む点を評価していただいたようです。

―美容室の環境配慮というのは、具体的にどのような取り組みですか?

リサ 環境に配慮したシャンプーやカラー剤を開発したり、美容室で出た髪の毛をリサイクルしたりする「サステナブル美容」を目指すことを提案しました。美容を通じて、環境意識や循環型の暮らしかたを発信していきたいです。

富岡製糸場で開催されたアワードで、表彰状を手にするリサさん

村人に愛される「リサちゃん」を目指して

―古民家美容室の計画は、どこまで進んでいますか?

リサ 現在、空き家の持ち主の方と交渉していて、譲っていただける方向で進んでいます。すでに設計士の方にも見ていただき、改装のイメージも固まっています。オープンは1年後を目標にしています。

―最後に、リサさんが思う出張美容師の魅力をお聞かせください。

リサ 高齢者の方々とじっくりとお話しできるのが、何より楽しいです。家に上がらせてもらうので親近感も生まれますし、終わった後はお茶を出してもらって、おしゃべりもしています。あと、カットしているとご近所さんが集まってきて、「何やってるの?」って話しかけてきて、そこから新たな会話が始まることもありました。今は業務委託で村外の仕事を受けることが多いんですが、時間が限られるので、あまり会話ができません。なので、村で美容師をやる時は、お客様とのコミュニケーションを大事にしたいなって思ったんです。美容を通して“見守り”のような役割も果たせるといいですね。

―名刺にも「村の出張美容師リサ」と記載していますね。

リサ 村のおばあちゃんたちから「美容師のリサちゃん」と呼ばれるのが目標なんです。なので名刺やチラシに記載する名前を「リサ」にしました。これからも出張美容を通して住民の方々と交流しながら、村に貢献していきたいと思います。

取材を終えて

家から出るのが困難もしくは億劫な高齢者にとって、自宅まで来てくれて何かをやってもらえるサービスはありがたいはず。しかも美容師はサービスを提供しながら会話もたっぷりできるので、利用者には良い刺激や気分転換になりそうです。リサさんが計画している古民家美容室も、単に髪を整えるだけでなく、新たな交流が生まれたり循環型の暮らしを発信したりする面白い場になるかもしれません。エネルギッシュなリサさんの話を聞きながら、ついそんなことを期待してしまいました。(以上)

◆村の出張美容師リサさんのインスタグラム