今から1000万年前に大陥没した痕跡が露出している「陥没の壁」。以前も一度見に行きましたが、自宅から歩ける距離にあるということで、ウォーキングを兼ねて再訪しました。ついでに南牧村の地質について「下仁田自然史館」で勉強してきました。

「陥没の壁」は、南牧村の林道、道場線沿いで見られます。星尾地区の小倉道場集落から林道に入り、短いトンネルを抜けてしばらく進むと、道路の右脇に看板がひっそり建っています。この対面の急斜面に表れているのが「陥没の壁」です。

…といっても、一見しただけでは単なる急斜面。看板の説明を読まないと一般人にはどこが壁なのかわかりません。看板の説明を読み、写真と現地を照合してはじめて、ここが壁であることが(なんとなく)わかります。



なぜこの場所を訪れたかといえば、最近、登山をしていて地層が露出した岩を見ることが多く、南牧村の地質や地層に興味を持ったため。それと林道の法面工事で、「陥没の壁」が見られなってしまうと聞いたからです(工事はR8年度の予定)。看板の説明によれば、この壁は1000万年前に発生した大地陥没の跡とのこと。右側が古い地層、左側が陥没後に堆積した新しい地層です。説明がなければ、一般人には絶対見つけられません。
ただ陥没といっても、現在は山々が連なっているのでピンときません。ということで、この地域の自然や地質を展示している下仁田自然史館に行って調べてきました。


自然史館2階の展示室の一角に、この陥没の説明が展示されています。正式名は「本宿陥没」で、一次、二次と2回も陥没したそうです。このあたりはもともと海でしたが、1200万年前から隆起して陸が出来始め、900万年前にマグマの影響で陥没が2回発生。陥没直後は穴に水がたまって湖となり、さらに激しい火山活動の結果、火山噴出物などで湖が埋まっていきました。この図によれば、この「陥没の壁」は一次陥没の跡のようです(右上の図の「大屋山」の左下あたり)。荒船山や鹿岳で見られる岩峰も、この陥没の影響で生まれたことがわかります。

興味深かったのは、本宿陥没の影響でさまざまな地下資源が生み出されたことです(上記説明を参照)。南牧村特産の砥石や椚石も、陥没をもたらした火山活動でマグマが貫入して生まれたと知り、なぜ南牧で石が産出されるのか、その一端が理解できました。近所にある星尾温泉も、陥没によって生まれたそうです。
ついでに「南牧村史」の地形と地質のページも参照したところ、本宿陥没のことが記載されていました。下の「南牧村地形略図」には村の北と南を分ける地形・地質区分線が記載されていますが、これが一次陥没の壁と重なっているのがわかります。

また、下の「南牧村地質図」によれば、区分線の北と南では地質が明らかに異なり、北は火山活動で生まれた安山岩、南は秩父古生層と呼ばれる陥没以前の地質であることがわかります。また、立岩や黒瀧山の岩峰も、陥没に伴う火山活動の名残りと思われます。



村史によれば、今回訪問した「陥没の壁」以外にも、陥没した跡が村内のあちこちで見られるとか。機会を見つけて、1000万年前の大地の記憶を探りに村内を地質調査してみたいと思います。(以上)